toggle

プラスチックの時代からの脱却を

高田秀重
東京農工大学 農学部 環境資源科学科 教授

このページの内容は、「解説用PDFファイル」としてダウンロードできます。ご利用ください。

■街で発生したプラゴミが世界の海を漂う

全世界で1年間に3億トンのプラスチックが生産されています。これは世界の石油産出量の8%に相当します。資源や地球温暖化の問題を考えても、プラスチックは大きな問題の一つです。

プラスチックの半分程度は、容器や包装などの使い捨てのプラスチックとして使われています。レジ袋、ペットボトル、お菓子の包装、食品トレー、コンビニの弁当箱など、私たちの身の回りは多くの種類のプラスチックに囲まれています。その量も多く、レジ袋だけでも一人年間300枚、毎日1世帯から1kgのプラゴミが発生する計算になります。これらのプラスチックゴミはきちんと収集されれば、リサイクルされたり、処理されたりしますが、一部は処理やリサイクルされずに、ゴミとして陸上に投棄されています。意図的な投棄でなくても、ゴミ箱が溢れたり、風で飛ばされたりして、陸上に落ちているプラゴミは結構多いです。

それらのプラスチックの多くは、水より軽いので、雨が降ると洗い流され、川に流れ込み、最後に海に流れ着きます。全世界で毎年800万トンのプラスチックゴミが海に流入していると推定されています。これらの一部は海岸に流れ着き、漂着ごみとして景観を害する等、問題となっています(図1)。

図1 マニラ湾の海岸

図1 マニラ湾の海岸

また、一部は紫外線や波の力で細かい破片となり、海を漂っています(図2)。インドから日本列島にかけてのユーラシア大陸南岸、地中海、黒海など人口密集地域の沿岸にたくさんのプラスチックが漂っています。さらに、外洋の真ん中の渦流の中心部には、海流と風の関係で、漂流物が溜まる場所があり、そこにもプラスチックが漂っています(図3)。本来の海の生物であるプランクトンよりも漂流プラスチックの方が量が多い海域もあります。そのような状態がプラスチックスープの海と呼ばれています。世界の海を合計すると27万トンのプラスチックが漂っていると推定されています。

図2 海への流入

図2 海への流入

 

図3 世界の海の浮遊プラスチック

図3 世界の海の浮遊プラスチック


 

■プラスチックを摂食する海洋生物

海を漂うプラスチックは海の生物に脅威になります。多くの海の生物がプラスチックを餌と区別をつけられずに、誤飲・誤食します。海鳥がプラスチックゴミを摂食することはその代表的な例です。外洋に棲息する渡り鳥の一種ハシボソミズナギドリは古くからプラスチック摂食の報告のある海鳥です(図4;図5)。1970年代には調べた個体のうち半数がプラスチックを摂食していましたが、1980年代以降にはほぼ全ての個体からプラスチックが見つかるようになってしまいました(図6)。

図4 ハシボソミズナギドリ

図4 ハシボソミズナギドリ

図5 ハシボソミズナギドリの砂嚢から検出されたプラスチック

図5 ハシボソミズナギドリの砂嚢から検出されたプラスチック

図6 摂食の増加傾向

図6 摂食の増加傾向

 現在では、ハシボソミズナギドリだけでなく、海鳥の9割がプラスチックを摂食していると推定する研究者もいます。さらに、海鳥だけでなく、ウミガメ、クジラ、魚、二枚貝など200種以上の海洋生物がプラスチックを摂食しています。図7にハシボソミズナギドリの胃の中から見つかったプラスチックを示します。胃の中のプラスチック片の量は1羽当たり、最大0.6gです。体重比で考えると、私たち人間の胃の中に60gのプラスチック片があることになります。60gのプラスチック片が私たちの胃の中にあることを想像してみてください。当然、影響が考えられます。消化管がプラスチックで詰まること、栄養失調、消化管の内側がプラスチックで傷つけられる、などの物理的な障害が起こります。

図7 ハシボソミズナギドリから検出されたプラスチック片

図7 ハシボソミズナギドリから検出されたプラスチック片

■化学汚染物質を運ぶプラスチック

さらに最近では、摂食したプラスチックが化学物質を生体に運び込むことが懸念されています。プラスチックには、様々な添加剤が含まれています。プラスチックをやわらかくするための薬剤、プラスチックが光で劣化しないようにする薬剤、プラスチックが燃えないようにする薬剤など様々です。それらの添加剤には環境ホルモンなどの有害化学物質も含まれています(図8)。

図8 マイクロプラスチックに含まれる化学物質

図8 マイクロプラスチックに含まれる化学物質

添加剤は破片になってもプラスチックの中に残っています。海を漂うプラスチック破片には、添加剤以外にも有害な化学物質が含まれています。プラスチックが、周りの海水中から有害化学物質を引きつけてくるのです(図9)。海水中には非常に低濃度ですが、分解されにくく有害な化学物質が溶けています。それらの化学物質は残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれており、ストックホルム条約という国際条約で規制されています。

海水中で低濃度なのに、何故問題なのかというと、それらの物質が生物の脂肪に濃縮されるからです。いわゆる生物濃縮という現象です。これらの化学物質は油になじみやすいので、生物の脂に高度に濃縮され、そして生物に悪影響を及ぼすのです。プラスチックはもともと石油から作られており、いわば固体状の油と見ることができます。ですから、プラスチックには周りの海水中から化学物質が吸着し、濃縮されていきます。プラスチックは周りの海水に比べて百万倍程度に汚染物質を濃縮しています。1gのプラスチックがあれば、海水1トン分の汚染物質をプラスチックが濃縮しています。

図9 プラスチックに吸着するPOPs

図9 プラスチックに吸着するPOPs

私たちは、世界各国のボランティアや研究者に呼びかけて、世界各地の海岸から海岸に落ちているプラスチックを東京農工大学に送ってもらい、その中の汚染物質を分析するというプロジェクト(インターナショナルペレットウォッチ:http://www.pelletwatch.org/)を行っています。現在までに世界50カ国、200地点以上の分析を行いました。全ての試料から汚染物質が検出されました(図10)。セントヘレナ島やココス諸島など大陸から100km以上離れた離島でもプラスチックは見つかり、高濃度の汚染物質を含んでいるプラスチックも観測され、人間活動のほとんど行われていない場所にも、プラスチックが汚染物質を運んでいることも明らかになりました。プラスチックは浮いて長い距離運ばれるので、都市から遠く離れた場所へ汚染物質を運びます。海ごみは単なるプラゴミではなく、有害化学物質の運び屋なのです。

図10 Pellet中のPCBs濃度

図10 Pellet中PのCBs濃度

私たちの最新の研究では、海洋生物に誤飲されたプラスチックから有害化学物質が溶け出し、脂肪に濃縮されていることが明らかになりました。例えば、ベーリング海で混獲されたハシボソミズナギドリでは、胃の中のプラスチック量が多い個体ほど、脂肪中の有害化学物質(PCBs)濃度が高くなる傾向が認められました(図11)。さらに、これらのハシボソミズナギドリの中には、餌には含まれずプラスチックにのみ含まれている添加剤を脂肪中に濃縮している個体も観察されました。このように、海洋生物がプラスチックを摂食すると、有害化学物質が消化液に溶け出し、生体に取り込まれ蓄積していう、海を漂うプラスチック片は有害化学物質の生物への運び屋になっているのです。まだ、それらの化学物質による影響は野外の生物では確認されていませんが、室内実験で魚に有害化学物質を含むプラスチックを食べさせると、肝機能障害や腫瘍が発生することが報告されています。

図11 ハシボソプラスチックとPCB濃度

図11 ハシボソプラスチックとPCB濃度

■マイクロプラスチックの増加と食物連鎖による人への懸念

海を漂っているプラスチックはだんだんに小さくなります。5mm以下に小さくなったプラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれます(図12;図13)。マイクロプラスチックは海流等で流されて世界中の海に漂っており、5兆個のマイクロプラスチックが世界の海に漂っていると推定されています。膨大な量です。もともと海には存在しなかったプラスチックが、海水中に溜まってきているのです。マイクロプラスチックはプラスチックごみが海岸や海の中で、紫外線や波の力で小さくなり、ぼろぼろになったものが主な起源です。

図12 東京湾マイクロプラスチック

図12 東京湾マイクロプラスチック

図13 太平洋マイクロプラスチック

図13 太平洋マイクロプラスチック

それに加えて、マイクロビーズ、化学繊維、削れるタイプのよごれ落としスポンジなども、マイクロプラスチックの発生源となります。マイクロビーズとは洗顔剤や化粧品に配合されている大きさが数百マイクロメーター程度のプラスチックの粒です。洗顔時に使えば、排水として下水道に入ります。ポリエステルなどの化学繊維製の衣服を洗濯すると、洗濯くずとしてマイクロプラスチックが排水に混じります。さらによごれ落としのメラミン製スポンジは削れていくのが製品の特徴ですので、削れかすがマイクロプラスチックとして、下水に入っていきます。これらの下水中に混ざったマイクロプラスチックは、雨が降って下水が溢れる際に、川や海に放出されます。図14に東京湾海水中から検出されたマイクロビーズの写真を示します。製品(洗顔剤)に入っているものと、酷似しています。アメリカでは2015年12月にマイクロビーズの化粧品への配合を禁止する法案が成立しています。日本でも規制が必要です。

図14 マイクロビーズ

図14 マイクロビーズ

マイクロプラスチックはその大きさが動物プランクトンと同じ程度であるので、二枚貝や魚の体内に蓄積することも明らかにされています。実際に東京湾で釣ったカタクチイワシやサバからプラスチック片マイクロビーズやなどのマイクロプラスチックが見つかっています。二枚貝やカタクチイワシなどの小魚は、それらよりも高次の栄養段階の様々な生物に捕食されるので、高次の栄養段階生物もマイクロプラスチックに曝露されていることになります。マイクロプラスチック汚染は生態系全体に広がっている可能性が高いです。また、貝や小さな魚の消化管からマイクロプラスチックが見つかったということは、私達は魚貝類を通して、マイクロプラスチックを食べているかもしれないのです。食べたとしても、マイクロプラスチックは消化されず、排泄されてしまいます。しかし、マイクロプラスチックに含まれている有害化学物質は、私たちの脂肪にたまってくるかもしれません。海鳥の胃の中のプラスチックから溶け出した汚染物質が海鳥の脂肪にたまっていたことを思い出してください。魚貝類に蓄積したマイクロプラスチックから汚染物質が魚貝類、そして人間に蓄積することが懸念されます。マイクロプラスチックと化学物質による海洋汚染、特に魚貝類の汚染は食の安全への脅威として世界的に懸念されはじめました。

国連では、このようなマイクロプラスチックが魚貝類を食べる人間にどのような影響が出るのかについて、海洋汚染の専門家を集めて、調査を開始したところです(図15)。結論はまだ出ていません。現在のマイクロプラスチックの量であれば、プラスチックから魚貝類に運び混まれる有害化学物質は大きな問題ではないという推定もあります。魚貝類も人間もプラスチック以外の経路(水や餌など)からも有害化学物質に曝されており、プラスチックの寄与や小さいという推定です。しかし、海に流入するプラスチックの量は、年々増える傾向にあります。何も手を打たなければ、今後20年で10倍になるという推定もあります。プラスチックは海の中での分解が極めて遅いので、海にどんどん溜まってきます。さらに、一旦海に入り、プランクトンと混在するマイクロプラスチックを取りのぞくことは不可能です。影響がわかってから海への流入を止めても手遅れになる可能性があります。

図15 GESAMPRome 国連海洋汚染専門家会議

図15 GESAMPRome 国連海洋汚染専門家会議

マイクロプラスチック汚染のトレンドを知るために、東京の皇居の壕の底の泥をボーリングしてマイクロプラスチックの溜まり方を調べました(図16)。壕の底は人為的攪乱も少なく、東京の汚染の様子が保存されています。泥の深い部分は江戸時代に相当しますが、もちろんプラスチックは検出されません。1950年代に相当する泥の層からはわずかにマイクロプラスチックが検出され、その量は2000年には10倍に増加しています。プラスチックの消費量の急増と対応しており、泥の中のマイクロプラスチックは確実に増加していることを示しています。世界中のいろいろなところで採取した泥を分析しましたが、同様の増加傾向は、タイのバンコク湾、マレーシアのジョホール海峡、南アフリカのダーバンなどでも観測されています。マイクロプラスチックの増加は、世界的な現象となっているのです(図17)。今、影響が目に見えなくても、兆候があれば、手を打つべきです。海鳥にはプラスチックから溶け出した有害化学物質がたまり始めています。これを炭鉱のカナリアの鳴き始めと考え、他の生物に影響が出始める前に手を打った方がよいと思いませんか?影響は確定しなくても、可能性があり、プラスチックの海への流入を減らせるならば、減らしていくことが、予防的な対策として大事です。

図16 桜田壕採取

図16 桜田壕採取

図17_TACOプロジェクト

図17_TACOプロジェクト

■使い捨てプラスチックの削減を

海へのマイクロプラスチックの流入を減らすためには、海岸のプラスチックごみの清掃回収活動は重要です。海岸での強い日射と高温により、海岸でのプラスチックの細片化、すなわちマイクロプラスチックの生成が進むと考えられています。大きなプラスチックですが、マイクロプラスチックの生成源の海岸のプラゴミ除去、清掃活動は大事です。しかし、それだけではマイクロプラスチック汚染は解決しません。海へ流入するプラスチックは陸上での私たちの暮らしの中から出てくるプラゴミなのです。海ごみというと、海に遊びに行った人が海岸にポイ捨てしたゴミを思い浮かべるかもしれませんが、そうではないのです。冒頭に述べたように、海から離れていても、私たちが街で使うプラスチックの一部が川を経て、海に運ばれるのです。私たちが日常生活の中で使いゴミになるプラスチックを減らして行く必要があるのです。

容器包装を中心として、不必要に使い捨てプラスチックが使われています。使い捨てのプラスチックを減らしていくだけでも、プラスチックによる環境汚染を抑えることができます。アメリカの一部の州やEU諸国では、レジ袋の禁止や削減が法制化さました。日本でも使い捨てプラスチックを減らすための行政的な取り組みが必要です。また、何でもプラスチックでラップするという過剰な包装から脱却し、持続的な流通システムを作ることも必要です。昔に戻り不便な暮らしをしようと言っているわけではありません。不必要に使っているプラスチックを減らしましょうと言っているのです。さらに、現在の技術を使えば、木や紙に機能を負荷して、不便さを感じることなく使うことも可能です。紙や木などのバイオマスを上手に使う技術や代替技術の開発も大事です(図18)。

図18

図18

建造物にもたくさんプラスチックが使われます。容器包装とは違い毎日出て来るわけではないですが、建て替えや取り壊しなどで大量にプラスチック廃棄物が発生します。また、震災時には、建造物に使われていたプラスチックががれきとなり、環境を汚染します。現在も震災漂流ゴミが太平洋を漂っています。その量は150万トンとも推定されています。震災漂流ゴミのかなりの部分はプラスチックです。長期的なスパンで見た場合、また震災や事故を考えた場合には、置き換え可能であれば、建造物へのプラスチックの多用は避けるべきです。木材や紙、金属、ガラスを使いましょう。

日本のプラスチック廃棄物の発生量は年間960万トンに上り、アメリカ、中国についで世界第三位です。日本では、この半分以上を焼却処理しています。しかし、焼却によるダイオキシン等の有害化学物質を放出しないような高性能な焼却炉の建設には多額の費用がかかります。例えば、人口数十万人の市の焼却炉の建設に100億円かかりその寿命も30年程度です。サステイナブル(持続的)な方法でしょうか?大量のプラスチックゴミを発生させ、それを焼却炉で燃やすという方法は持続的な方法ではありません。プラスチックの焼却は「サーマルリサイクル」と呼ばれていますが、実際は石油にエネルギーをかけて加工してそれを燃やしているだけで、「リサイクル」ではありません。数百万年以上かけて地中で生成した化石燃料をたった数十年で燃やしてしまうというやり方は、リサイクルでも持続的でもないやり方です。温室効果ガスの排出量を今世紀末には実質的にゼロに抑えるというパリ協定違反です(図19)。プラスチックに頼った社会の仕組みを変えていきましょう。

図19

図19

最近地質学の分野では人新生という時代区分が提唱され、議論されています。我々は第4紀の更新世という時代に生きていますが、人間活動の影響が地球の物質循環システムを大きく変え、生物の絶滅も加速され、化学物質や放射能などの人為起源物質が地層の中にも刻まれるようになってきています。このような状態を踏まえて、1950年以降の時代を人新生と呼ぶべきだという提案が行われています。前述したように、実際に地層の中にプラスチックは刻まれつつあります。まさに人新生となっているのです。このような痕跡を地層の中に残してよいのでしょうか?

アメリカのネイティブインディアンの言葉に「我々は子孫から大地を借りて生きている」という言葉があります。借りたものは、害があろうがなかろうか、汚さずに返すが、当たり前です。汚れたけど、使えるからいいよね、と言って他人に借りたものを返す人はいないと思います。僕ら人類も、将来の世代から借りているこの地球を汚さずに返す責務があります。分解されないプラスチックを地球上に残さないように、考え方を転換させて行きましょう。ほんの少しの利便性のために、将来の人類につけ(汚染)を残してよいのでしょうか?ペットボトルの飲みものを買う前、コンビニでプラ弁当箱入り弁当を買う前、スーパーでレジ袋をもらってしまう前に、もう一度、それがほんとうに必要なのか?環境汚染・環境負荷の少ない代替物はないのか?と考えていただきたいと思います。